研究員

相談役

河合英夫

掘り起こすのは、過去だけではない。
未来への記録を残すことです。

創立45年、5人から始まった研究所の歩み

志から始まった、小さな研究所の挑戦。

玉川文化財研究所が発足したのは、1980年、昭和55年のことです。
当時はまだ5人か6人ほどのメンバーしかおらず、本当に小さなスタートでした。
それでも、「文化財を守る仕事を自分たちの手でやっていこう」という強い気持ちだけは皆が持っていました。
私もその発足当初から関わっておりまして、気づけば今年で45年になります。
今では職員も45名ほどになり、こうして組織としてここまで成長できたことを嬉しく思っています。

埋蔵文化財調査という使命

地中の声を聴き、記録として未来へ残す。

私たちの仕事は、開発行為に伴う埋蔵文化財の発掘調査です。
たとえば道路や建物の建設などで、地中に遺跡が埋まっている場合には、行政の指導のもとで調査を行います。
保存が可能であればそのまま残しますが、開発でどうしても保存が難しい場合は、発掘調査をして記録に残します。
つまり、形としての遺跡はなくなってしまっても、そこにあった歴史や文化を ”「報告書」という形で未来に残す" ことが、私たちの役目です。
文化財調査というのは、過去を掘り起こすだけでなく、未来へ伝えるための仕事なんです。

700冊の報告書が物語る信頼

報告書一冊一冊が、私たちの歴史です。

創立からこれまでの間に、私たちはおよそ700冊の調査報告書を発行してきました。
行政や依頼主に提出する正式な成果物でもあり、同時に玉川文化財研究所の歴史そのものでもあります。
弊社は3階建ての建物で、2階と3階のフロアには、これまで刊行した報告書がずらりと並んでいます。
いつでも手に取れるようにしていて、職員たちにとっても大切な資料です。
一冊一冊に、それぞれの現場の苦労や発見、そして仲間たちの努力が詰まっています。
この積み重ねこそが、私たちが45年間信頼をいただいてきた理由だと思っています。

専門家が集い、時代をつなぐチーム

旧石器から近世まで。時代を超えて学び合う。

遺跡には、本当にさまざまな時代のものがあります。
旧石器時代、縄文時代、弥生時代、古墳時代、そして奈良・平安から中世・近世まで——。
玉川文化財研究所には、それぞれの時代を専門とする調査員がいて、日々現場で力を発揮しています。
私自身は弥生時代や奈良・平安時代を専門としているのですが、現場では担当の調査員とよく意見を交わします。
「この遺構はどう見えるか」「この出土品はどう解釈できるか」といった議論を重ねながら、複数の視点で確認していくんです。
そうしたやり取りの中から、より確かな報告書が生まれます。
一人の考えだけでなく、チームとして知識を磨き合うことが、この研究所の強みだと感じています。

当社発行の『神奈川を掘る』のご紹介

現場の“気づき”を次へつなぐ、職員による研究論集

私たちの調査は、あくまで考古学的な手法に則って行うということを基本としています。
埋蔵文化財の調査と学術調査の違いは、目的にあります。前者は開発行為に伴って行われるものですが、調査の手法そのものは、これまで積み上げられてきた考古学的研究の成果や方法論を踏まえて進めています。
ですから、私たちは日々の業務の中でも、学術的な視点を常に取り入れることが大切だと考えています。

調査を行うにあたっては、報告書の作成が重要な成果物になりますが、すべての課題をその一冊の中で完全に網羅できるわけではありません。
そこで私たちは、報告書で触れきれなかった部分や、新たに見えてきた課題を“掘り下げる”活動を続けています。

その実践の場として発行しているのが、弊社の研究論集 『神奈川を掘る』 です。
この冊子は、各現場で感じた疑問や課題、分析の中で見えてきたテーマを、改めて研究対象として整理し、共有するためのものです。
職員がそれぞれの専門や視点から執筆を行い、報告書とはまた違った形で、調査の裏側にある「考える力」を記録しています。

『神奈川を掘る』は、社内の知見を次世代へとつなぐための研究活動であり、また職員同士が互いの問題意識を共有する貴重な場にもなっています。
今後も、日々の調査を通して得られた発見や課題を、この研究論集を通じて社会に発信し続けていきたいと考えています。

学問を基礎に、学び続ける組織へ

埋蔵文化財の調査というのは、やはり考古学という学問を基礎にして成り立っているものだと思っています。
もちろん、私たちの仕事は大学で行うような学術研究そのものではありません。
けれども、最新の研究成果や学説を理解し、それを自分の中で消化して現場に活かすことが大切なんです。
そうした積み重ねが、調査の質を高めていきます。
職員一人ひとりが自分の立場で学び続け、学術的なレベルを上げていくことで、研究所全体の成長につながる。
私はそう信じています。

掘り起こすのは、過去ではなく未来への道。

遺跡というのは過去を語るものですが、私たちの仕事は未来に向かっていると思っています。
地中に眠る遺跡を掘り起こし、記録を残すことで、これからの人たちが過去を学び、未来を考えるきっかけになる。
それこそが、文化財調査の本当の意味だと思うんです。
創立から45年、私たちは多くの現場を経験し、数え切れないほどの発見と記録を積み重ねてきました。
これからもその歩みを止めることなく、「文化を未来へつなぐ」仕事を続けていきたいと思っています。

 

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